長野まゆみ「野川」を読む



最近はあまり小説を読まなくなってしまった。理由の1つは読みたい作家がいないから。我儘で傲慢な言い分だとは思う。現在でも新人作家は日々登場し、作品も多く生み出されている。探せば私の琴線に触れるような小説に出会えるかもしれないけれど、宝探しのように読み漁り、至高の一冊に出会おうとする情熱は私にはない。それなら実用書だったり、鬼籍に入ってしまった文豪の作品を選んでしまう。

そのような感じであまり最近の作家の小説には縁がないのだけど、たまたま長野まゆみさんの「野川」が目に入った。正直、長野まゆみさんという方は知らないのだけど、野川というタイトルはとても気になる。武蔵野という土地を描写した作品は、武蔵野を撮る人間としては見逃せない。多摩川や荒川、入間川と比べると野川は地味だ。けれど、その素朴な印象が武蔵野らしいとも思える。

読み進めてみると、私が住んでいるのは武蔵野とはいえ埼玉の所沢なのでまるで馴染みがない。多摩川はよく撮りに行くけど野川周辺は歩いたことがないのだ。けれど、大岡昇平の「武蔵野夫人」に野川や国分寺崖線、ハケのことが書かれていたので何となく想像はつく。「野川」の小説内でも地名がタイトルなだけに、土地の描写が教科書的に語られている。主人公が成長していく、周りと交流していくストーリーより土地の印象のほうが強く残った。とはいえ、具体的にどこが舞台なのかは記されていない。国分寺なのか小金井なのか三鷹なのか。少し気になるけど、どうでもいいことだろう。武蔵野であり野川があることが大事なのだ。

登場人物の教師が語るホタルの話もいい。話を聞かせることで生徒の想像力や感受性を育てる。今の時代は写真や動画、映像と派手なものが溢れているけど、人の内面を育てているかは分からない。小説家ならではの問いかけともいえる。大きな事件は起きず、スローに淡々と進んでいく物語だけど、主人公と父親のこれからはきっと明るい。終始静かだけど良い読了感だった。